初めてオランダの冬を迎えるとき、駐在の日本人の奥様方には「覚悟しておいてね」とか、「絶対気が滅入るから何か習い事をした方がいいよ」などと言われたものでした。実際、あまりにどんよりした毎日に驚かされたました。私はある日本海側の町に住んでいたことがあるので、来る日も来る日も陰鬱な空から雪がぼさぼさ落ちてくるのを経験していますが、そんな私でもオランダで一月以上太陽が拝めないのは憂鬱でした。しかもオランダの空から降ってくるのは雪ではなく、横殴りの雨や雹なのです。窓にばらばらと砕ける音がすると、それだけで心まで冷たくなるのでした。もぐらとの結婚をドタキャンした親指姫の気持ちが分かるというものです。
そんなオランダでも極々たまに晴れることがあります。真っ青な空に太陽が出ていると、例えそれが白っぽくて傾いたような太陽でもうれしくなります(ちなみに、娘は日本に帰るまで太陽の色を赤ではなく黄色に塗っていました)。でも、そんな時はやはり放射冷却が起きて朝は気温がかなり下がるのです。しかも、東京なら日中太陽のおかげで気温が上がっていくのですが、オランダではそうなりません。太陽に地表の空気を暖めるだけの力強さがない上に、気温が上がる前に沈んでしまうからです。そして数日晴れが続くと・・・オランダは冷え冷えに冷え切ります。
零下10度を経験したことがありますか? スキーをする人なら分かると思います。鼻毛が凍るのです。鼻から息を吸うと、中がつんとしてぱきぱきと。鼻をつまむとしゅんと解けます。子供を産んでからしばらくスキーにも行っていなかったので、しばらくぶりの体験でした。
また、車に乗って娘を学校まで送ろうとすると渋滞している道路が白い煙で覆われています。車の排気ガスの中に含まれる水蒸気が瞬時に冷やされて白く見えるのです。もうもうとした白い煙をかき乱すように車が走る光景はなかなかおもしろいと私は思いました。
が、オランダ人にとってこんな寒いときの楽しみはやはりスケートです。
オランダにはあまり雪が降らないことと、山がないことであまりスキーはポピュラーなスポーツではありません。極手軽にスケートできる環境が整っているわけですから。零下10度の日が数日続くと町の至る所にある運河が凍り、天然のスケートリンクが出来るのです。
オランダ国内の運河という運河が凍ると、学校や会社が休みになって大きなスケート大会が開かれるのだそうです。何しろ運河ですから、国中に張り巡らされていてつながっているわけで、かなりの距離のコースが出来ます。文字通り老いも若きも大騒ぎでこの大会を楽しむのだとか。ただし、大会を開けるほどに寒くなるのは十年程に一度しかありません。残念ながら私たちは見ることが出来ませんでした。
それでも、二年目の冬は数日間運河の氷ががちがちに凍りました。子供達は学校が終わるとスケート靴を持って運河に押し寄せます。もともと運河に柵なんてしてありませんから、いくらでも運河の上に出られるのです。私も娘を連れてアパートのすぐ裏手にある運河に出かけました。スケート靴はないので長靴スキーです。娘は恐がりなので、いくら周りの子供達が滑っていても「割れたらどうしよう」と怯えてばかり。へっぴり腰で歩くせいでとうとう尻餅をつく始末です。
地元の子供達はといえば、そんなにはスケートをする機会がないだろうに皆器用に滑っています。ですが、しばらく見ていると、彼らが上手な理由が分かってきたような気がしました。彼らの動きは、いつも彼らが楽しんでいるインラインスケートの時とそっくりなのです。
オランダでは年齢を問わずインラインスケートを楽しむ人をよく見かけます。いえ、楽しむというよりはまさに足として使っている人もいます。スーツ姿にインラインスケートで滑っていくのは、通勤に使っているのでしょうか。驚いたことにインラインスケートを履きつつベビーカーを押している女性さえいました。もっともオランダでは車道と歩道の間に自転車用道路があり、そこを使うおかげで他の歩行者に迷惑にならず、安全でもあるということも、これだけインラインスケートが普及している原因かもしれません。
また、オランダの人にとってインラインスケートは、冬のスケートのための練習なのではと思う部分もあります。ぴっちりとしたウエットスーツのようなものを身につけ、インラインスケートで走る人もおり、どうみてもスピードスケートの選手の練習風景です。実際オランダにはスピードスケートのすばらしい選手が沢山居ますが、こういった環境が産んでいるのかもしれません。
そういえば、スピードスケートの選手には自転車競技との両立をしている人が少なくありませんね。同じ筋肉を使うからと聞いたことがありますが、スケートの得意なオランダ人が自転車も大好きというのは、やはりなにか関係があるのでしょうか。とにかくオランダ人は自転車をよく利用します。が、オランダ人にとっての自転車については、また、今度。
(2003年2月7日記)