オランダの不動産オーナーが日本人に貸すのを嫌がるという話もありました。日本人はオランダ人のしない揚げ物や炒め物などをするために台所を汚すから、というのです。それだけオランダ人の料理の幅がないということになります。実際にオランダに住んでみたら、夕方にはアパートの他の部屋からいいにおいがしてきました。「なーんだ、やっぱりちゃんとお料理しているんだ」と思ったのもつかの間、そのいいにおいが毎日同じだと気づくのに時間はかかりませんでした。やはりメニューは固定されているようです
スーパーには様々な食材が売られていました。それでも、オランダ人のカートをのぞくと、「栄養学というものを知らないんだろうか?」という素朴な疑問がわきます。日本の何倍もあるような大きなカートに、日本なら6斤ぐらいはあるような食パンの塊を2つ、3つ。ポテトチップスの袋が6つぐらい。その袋の合間に挟まってハムとチーズ、牛乳、大きな袋詰めのじゃがいもなど。肉の塊を何キロか入れている人もいますが、野菜が見あたりません。そういえば野菜コーナーが他のコーナーに比べて閑散としていたことに気づきます。ビタミンはどうやってとるのでしょう(あ、ビタミン剤かもしれません。薬局に沢山売られています)。身体に悪いからと肉の脂身を食べないところを見ると、健康に気をつけてはいるようですが、スーパーで感じた通り、こちらの成人病の発症は日本よりも10歳ぐらい若いのだそうです。
どうもオランダ人は食べることに積極的になる人たちではないようです。とりあえずお腹を満たせばいいと思っているフシがあります。例えば、バスに乗るとたいてい誰かしらパンをかじっています。それも若い人とは限りません。スーツを着たいい大人が、昼食のために時間を割くのはもったいないと、移動時間を利用して食事をしているのです。小学校でも、昼食を食べるのに席について食べず、車座で床に座るところがあります。みなで一緒に「いただきます」もしないし、「ごちそうさま」もせず、食べ終わった順に外に出て遊びます。食事中と食事後を明確に分ける意識がないのでしょう。
これだけ食に執着しないとなれば外食産業が育つわけがありません。贅沢品と思うからなのか値段が高い上に、洗練されていないのです。もちろん、高級なレストランではそれなりのものが食べられるようですが、ごく一部になってしまいます。マク○ナルドに夕飯を食べに行くファミリーが多いのにも驚かされます。オランダではハンバーガーも立派なディナーになるようです。
ファミレスに始まって各国料理を外で食べることに慣れている日本人にはちょっとつらい状況だと言えます。駐在の日本人の中には、ストレス発散のためにベルギーまで食事をしに行く人もいるようでした。
ただし、先ほども書いたように食材は結構手に入ります。野菜もアジアのものから南洋のものまで、様々に売られているのです。それだけ色々な国の人々がオランダに住んでいる証拠でしょう。おそらく、オランダ人がそれらを試すことはほとんどないでしょうから。
日本のものなら大根、白菜、しいたけなどを見かけました。大きさや食感などが微妙に違うところをみると、日本からの輸入ではなくオランダ周辺で作られているようです。ヨーロッパ内や中南米からの輸入品も多く、そしてそのどれもが日本に比べてとても安いので、日本にいるときよりも野菜や果物を食べていた気がします。花の栽培と同様に、野菜や果物などの農業もこの国の重要な産業だという面があるにしても、自分たち以外の文化への寛容性を感じました。
ところで、日本では当たり前のように手に入る物が案外オランダでは見かけず、日本の食文化も実は特殊なものなのだと気づいた場面がありました。もちろん、納豆や豆腐などが手に入りづらいということは分かり切っていることですが、肉に関しても「霜降り」は当然のこととして「薄切り」のものが手に入らないのは驚きでした。肉屋のおじさんの手の空いたときに頼むとなんとかやってくれるのですが、野菜炒めの用の豚肉の切り落としとなると頼むのも厄介で、唯一の脂付き肉であるバラ肉を自分で薄く切っていました。また、鳥の挽肉はともかく、骨をはずしたもも肉が売っていないのもカルチャーショックです。肉文化というのはもともと欧米のもののはずですが、日本で特有の文化が育っていたのだということに気づかされました。
日本というのは独特の食文化を持っていて、自分たちが普段意識している以上にそれにこだわりを持っていますよね。私たちはあまり気にしない質なのですが、「夕食はやっぱりご飯でないと食べた気がしない」という日本人が多い気がします。数日の旅行なら我慢できても、暮らすとなると気になるようです。手作り豆腐を共同購入したり、月に2度の日本食材宅配車を利用したりということになります。これを「国際性がない」と責める人もいるかもしれませんが、日本人だけに限った言動ではないのです。韓国人だって、本格的キムチを作るためにドイツからやってくる宅配車で魚介スープや白菜を購入します。他の国からやってきた人たちもそれぞれに何かしら不満を持っているようでした。
ブラジル人「鶏肉の脂分の割合が違うし、バナナの味が違う」
ニュージーランド人「ラム肉がほとんど売っていない! あっても高い!」
などというのはともかく、すぐ近くの国の人でさえ
イギリス人「ベーコンの厚みが違う」
スペイン人「オリーブオイルの種類が少ないし、高い」
などなど。やはり生まれ育った環境というのはいつまでも身体に染みついているもののようです。
なんだかんだとオランダの食べ物について文句を言ってしまいましたが、日本で生活するオランダ人は何を恋しく思っているのでしょうか。こんなプロセスチーズしか売っていないなんて、なんて日本の食文化は貧しいんだろうと、思われているかもしれません。
自分を育てた食事がもっとも素晴らしい物なのではないかと、朝ご飯に納豆をかけながら思うのです。
(2003年3月21日記)