京都でお願いした英語通訳の出来るハイヤーの運転手さんはとてもよく気の付く人で、ガイドとして完璧なのはもちろん、観光する場所に着くと私たちだけを下ろした後、駐車場に車を停めると走って私たちのところへと戻ってくるのです。観光する場所からハイヤーに戻ろうとする時には、私たちを待たせまいとして自分だけ先にハイヤーに向かって走っていきます。そして私たちが車に乗り込むと全てのドアからドアへと走り回り、私たち全てのためにドアの開け閉めをしてくれようとするのでした。
旅館でもそうです。何か忘れ物をすると、仲居さんは「失礼いたしました」というなり小走りで取りに戻るのです。それが当然のように自然な動きで。
まあ、日本の全ての場所でそうだとは言えないわけですが、確かに日本人のサービスというのはきめ細やかで、Marcoが「日本の発展した理由が分かったよ」と言っていたのにもうなずけます。
逆に、オランダでの人々の対応は私たちにとってカルチャーショックでした。全部が全部不親切だとは言いません。にこやかに対応してくれる人もいるし、気遣ってくれる人もいます。それでもそれは「親切な人」という個人の資質によるものであって、そのお店なり会社なりが組織的に教育するという類のものではないようです。
オランダで最初に出向いたのはお役所です。まあ、日本のお役所もほめられたものではありませんから、ここでのたらい回し的な扱いは目をつむりましょう。それでも知り合いは、保育園のウエイティングリストに載せてもらった後一月ほどして様子を聞きに行くと「担当者はバカンスだから分からないよ」と門前払い。日本なら誰かが引き継ぐところなのにと、それだけでも驚きですが、さらに数週間後に出かけてみれば「その担当者は病気で入院してしまったから分からない」ですと! 彼女さすがに引き下がらずにその担当者の机の中を見るように言ったそうです。そしたら、出てきました。彼女の記入していた申込用紙が。なんの手続きもされないまま放り込んであったのです。
お役所の次に手続きをしたのは銀行です。オランダでは銀行口座も共有名義に出来るのでその手続きを取り、夫婦それぞれにカードを作ってもらうよう用紙に書き込みました。ところが届いたのは主人ののみです。そこで私は無謀にも銀行に電話をかけました。「申し込んだのに私の分が届いていない」と言うとなんちゃらかんちゃらと早口でまくしたてます。「もっとゆっくり話して欲しい」と言うと、「あなたではだめ。もっと英語の出来る人が電話してきてね」と言って一方的に電話が切れました。まあ、実際に私の英語力がないのも悪いのですが、それにしても「申し訳ない」という雰囲気は皆無でした。後で主人が電話すると「申し込まれてない」という一言。なるほど、「Sorry」とすぐに自分の非を認めてはいけない文化のはずです。この「私のせいではない」という態度はいつもついて回っていました。その言葉で自分を完全武装しているのでしょう。
お店に出向いても驚くことは色々ありました。スーパーのレジの女性はなんと椅子に座っています。しかも客より一段高くなった位置に椅子はあり、背の低い私はともすると見下ろされてしまいそうです。レジを打った後の商品はベルトコンベヤの上に投げるように放り出されますし、客がまだ並んでいるのに平気でレジの前に「Close」の札を置いて休憩に入ります。日本ならおばちゃんが文句を言い、例えレジ係のおねーちゃんがふてくされたとしても、店長が出てきて平謝りに謝るところです。何しろ日本では「お客様が神様」ですから。そこまで客に卑屈になることもないと個人的には思っていますが、オランダ人の態度には腹の据えかねることがあるのも事実です。
Marcoが電気店でビデオカメラを買ったときのこと。どうもうまく動かないので電気店に持っていくと修理に出してくれるのですが、戻ってきてもちっとも直っていません。何度か繰り返すうちにMarcoもさすがに頭にきて強く言ったらしく、ご機嫌を損ねた店員はこう言い放ったそうです。「そんなにこれが気に入らないなら運河にでも捨てれば」。ここまで極端ではないにしても、買ったばかりのものが不良品で、直してもらおうとして何度修理に出してもちっとも直らずに戻ってくる・・という話は死ぬほど周りから聞かされました。そんな時の店員の態度もそんなに違いません。彼らにしてみれば、商品が不良品なのも直って帰らないのもあくまでメーカーの責任で、「まったく自分のせいではない」という思いがあるわけで、他人のミスを自分が謝る義理があろうはずがありません。
お店などで笑顔で接してもらえないことが多いのも驚きでした。完全武装の一つなのでしょうか。どうも友人でもない人間に笑いかけるのは損だと思っていそうです。これは若い女性に多く、もともと険しい顔立ちをしているオランダ女性がむすっとしていると、こちらは必要以上に縮こまってしまいます。それでついへらへらと日本的笑みを浮かべてしまうのですが、これがまた彼女たちをいらつかせてしまっていたのではと、今なら思います。慣れないダッチギルダーの数え間違いをして「やだ、間違えちゃった」と照れ笑いをしたのに(照れ笑いというのはもともと海外で通用しませんが)、「さっさとしてよね」という冷たい目で見下ろされたりするとへこみます。慣れてくると、そんな無愛想女性に当たったときには先手必勝でこちらも笑顔を見せないようになりましたが。こんな彼女たちのことを考えると、スマイル0円というのはなんてお安いんでしょう。
先ほども言いましたが、オランダでも皆が皆そんなひどい態度というわけではありません。いつも行くスーパーの野菜コーナーのおにいちゃんは唇にまでピアスをつけていましたが、私に野菜の袋を渡すときには必ず笑顔でしたし、工具を売っているお店では一体どんなことに使うのか尋ねてくれて、他のお店を教えてくれたりしました。ベビーカーを持ってバスに乗ろうとすれば必ず誰かが手伝ってくれます。今考えるとそれらが全部男性なのは偶然なのでしょうか?
また、出会った年配の方はみなさんとても親切で、嫌な思いをしたことはほとんどありませんでした。最近、日本でも若者は仲間同士にだけ親切だという話をききます。同じようなことが他の国にもいえるのでしょうか。オランダの場合、半分社会主義に近いような福祉国家なので、どんどん皆が必要以上のことをしなくなっている傾向があるような気がします。一生懸命やってもやらなくても結果が同じなら、人間頑張らなくなるのではないでしょうか。こういった社会的な背景も関係しているのかもしれません。
ところで、以前、ある日本の流通業の会社の新人社員研修に出くわしたことがあります。基本はお辞儀から。全員で朝から声を出し、何度も頭を下げていました。その姿は異様だという思いもありましたが、それらの教育が社員達のあの態度を作り上げているのでしょう。日本のサービス業はこういった努力に支えられてきたと言っていいのかもしれません。
それにしてもオランダ人の女性達、微笑むともっとチャーミングに見えると思いますよ。余計なお世話かもしれませんけど。
(2003/3/28記)