2004年05月20日

靴の文化

日本にあってオランダでは手に入りづらいもの。色々ありますが、靴箱もその一つです。
日本人はやはり家の中を靴で歩くことに抵抗があるので、オランダで暮らしてもほんとんどの場合家の中で靴を脱ぐ生活になります。玄関先でスリッパに履き替えるのです。このとき脱いだ靴を収納する棚が必要ですが、オランダでは見つけるのが困難です。オランダ人だって靴を履き替えることはあるでしょうが、玄関先でするわけではないようです。私たちが玄関先で洋服を着替える訳ではないのと同じ理由なのでしょう。

また、彼らは外と中を完全に分ける考え方にはなかなかなじめないようです。日本人は家の中では靴を脱ぐのだということを知っている外国人も案外いますが、そういう人でも日本の我が家にやって来たときはタタキで靴を脱ぎ、一旦タタキで裸足になってから上がり框に足を載せるのです。子供の時からの習慣で、知らず知らずのうちにタタキで裸足になることなく慎重に家へ入る日本人とは随分違います。
彼らと私たちとでは、靴に対する感覚が違うのでしょう。オランダに住んでいたとき、ある日本人の友人は、やって来た電気工事の作業員に「靴を脱いで欲しい」と頼んだのですが、「この靴は脱げないことになっている」と言われ、後で床を掃除するのが大変だったと嘆いていました。まあ、この靴は作業用の絶縁靴(電気を通さない靴)だったのかもしれず、自分の身の安全を守るためには脱ぐわけにはいかなかったということも考えられますが。そうでなくても、作業員にしてみれば親しい友人の家にやってきたわけではないのですから、相手の文化に合わせて靴を脱ぐというほどのことまでする必要はなかったのでしょう。どうもオランダ人にとって靴を脱ぐ行為というのはかなりプライベートなことのようなのです。

これも友人の話ですが、自分の子供のところへオランダ人のお友達が遊びに来たとき、「靴を脱いで」とお願いしたところ思いがけずその子供にかなりのショックを与えてしまったのだとか。「あんな屈辱的なことはないわ」と、二度と遊びに来なくなってしまったのだそうです。想像するに、私たちが「ズボンを脱いで下着姿になって」と言われたのと同じように感じたのかもしれません。彼らにとっては、人前ですることではないのでしょう。

逆に言えば、身内では靴を脱ぐことも構わないのかもしれません。実際、家では部屋履きにはきかえるというひともいましたし、靴を脱いで靴下で歩き回る人もいるようでした。欧米人のことを「家の中でまで靴を履くなんてくつろげないんじゃないの?」と日本人は思っていますが、こんな風にしっかりくつろいでいる人もいるのです。
だからといって完全に土足厳禁にしているわけではなく、お客様は靴のままで上がる(日本と違って段差がないのですから上がるというのも変ですが)のですから、靴下は第2の靴扱い。汚れて当然と考えて気にしていないようです。飛行機の中で欧米人に会うと、靴下で歩き回っているのをよく見かけますが、彼らに「汚れてしまう」という感覚はないわけです。

他にも「外からそのまま家の中に入っていたら、家中が汚れて不衛生じゃないの?」と思いますよね。ですが欧米人と日本人とでは衛生観念が違うようなのです。何しろ、外から帰ったり、食事の前に手を洗うと言うことが徹底されていないくらいですから。日本のようには湿気がなく、雑菌が繁殖しにくいことに原因があるようです。ただ、家中をぴかぴかに磨き上げることに一生懸命になるオランダ人のことですから、床が泥だらけでも平気というわけではありません。それぞれの家の玄関ドアの外にはだいたい亀の子だわしを平らにして広げたような玄関マットが敷いてあり、家に入る前にごしごし靴をすりつけて汚れを落とすします。私たちが住んでいたアパートメントでは、各戸の玄関前だけでなく、アパートの入り口の共用玄関にも玄関マットがありました。そして、「泥はきちんと落としてから中に入りましょう」とチラシが貼られていました。家の中へ靴のままで入るからこそ、汚れには気を遣わなければいけないということなのかもしれません。

その靴ですが、売られているものはどれもごつい革のものがほとんど。底が分厚くて丈夫そうです。中世の以前からヨーロッパでは馬が歩きやすいように石畳が多かったわけですが、この石畳には馬の蹄と同様、底の厚い靴が合うのでしょう。特に冬のヨーロッパは底冷えがしますから、こういった靴がぴったりです。

ただ、これが子供の靴でも状況が同じだということが驚きです。日本人の親なら子供の靴を選ぶポイントの一つが「軽いこと」であるだろうと思うのですが、オランダでは幼児用も革靴の重いものばかりが売られています。運動靴でその辺を歩いている子供はいません。
頑丈そうなのでオランダ製の革靴を我が家の娘にも買ってあげたのですが、どうも歩きづらそうで変な歩き方になってしまっていました。彼女には重かったようです。それでもオランダの子供達はこの重い靴を履くのがあたりまえなわけで、こうして足を投げ出すようにする歩き方を学んでいるのでしょうか。日本人の女性にヒールを履きながらも膝を曲げて歩く人が多く、欧米人が颯爽と闊歩できるのは、こういったことが関係しているのかもしれません

靴を履き始めるのも、彼らは日本人よりもずっと早いようです。日本には歩き始めの頃用のものからしかありませんが、オランダでは本当の乳飲み子に履かせる靴までしっかり売っています。さすがにお飾りのような可愛らしいものになりますが、そんなに小さくても靴を履かないで外に出るのがお行儀の悪いことなのでしょうか。

こうやって靴の文化を築き上げてきた欧米に対して、日本人が靴をはき始めたのはつい最近。次々とはきつぶしては変えていく草履を履いていた私たちは、まだまだ靴を大切に考えていないのかもしれません。足の健康よりもデザイン重視の製造に偏っているとも言われています。どう考えても危ないとしか思えないミュールでよろよろと階段を上り下りする日本人女性を見るたび、まだまだ靴を使いこなしていないのかなあなどと思ってしまうのです。ま、流行よりも安全を選んでしまうおばさんに、自分がなってしまったということだけなのかもしれませんけど。

(2003年11月18日記)
posted by Kako at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 習慣
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