オランダで過ごした年末。クリスマスを過ぎてなんとなく気が抜けたようになりましたが、大晦日が近づくとなんとなく忙しないような気になるのはやはり日本人だからなのでしょうか。オランダに滞在中の日本人の中にはきちんとおせちを用意する方もいるのですが、ご想像通り材料を集めるのだけでもちょっと一苦労。どうせ一生の間に二回だけだし、おせちがないお正月もいいかなーと、私はまるっきり準備しませんでした。日本と違って三が日スーパーがやっていないというわけではないので(最近はそれもなくなりましたが)、食べるものに困ることはないのです。
こうなると大掃除をする気もせず、ほけーと過ごす単なる祝日になるわけですが、さすがに大晦日は街の雰囲気が少し違いました。昼頃、パチンパチンととぎれとぎれに街中から聞こえてくるのは爆竹の音です。
大晦日を前に日本人のお友達から聞いてはいました。ヨーロッパの中でもいくつかの国がそうであるように、オランダの年越しは花火で祝うのです。もともと普段は花火が許されていないと言います。元旦の午前0時から3時までが唯一一般の人たちが花火を楽しめる時間なのだそうです。昼間の明るい内から聞こえてくる花火はおそらくその前哨戦。夜どこで花火をやるのか場所を探しているのでしょう。いつもは見かけないような若い男の子達がそのへんをうろうろしているのでした。
その友達はまた言っていました。「花火はすごいから。出来るだけ家を空けない方がいいし、その時間頃に外を歩くのもやめた方がいいと思う」と。
ちょっとドキドキしながら0時を待ちました。11時を過ぎた頃からますます花火の音は増えていきます。そしていよいよ0時。時報と共に街のあらゆる所で花火があがりました。本当にあちらこちらから上がるのです。そしてとても綺麗。日本の尺玉花火も見事ですが、こうしていくつもの花火があちらこちらから上がるのもなかなか壮観です。まあ、確かに音がすごく、戸建てであれば火事も心配そうですが。花火の音は最初の15分ほど本当に間隙なく響き、それからは少しずつ減っていきましたが、まどろみ始めた1時頃にもまだ続いていました。
このときの花火の印象は小さな娘にも強烈だったらしく、彼女の中でしばらく「花火=大晦日」というイメージは続いたようでした。
オランダの大晦日の名物は他にもあります。遠くから爆竹の音が聞こえ始める頃、スーパーなどに行くと油の臭いが漂ってきます。オーリーボーレンを揚げるにおいです。オーリーボーレンとはレーズン入りのいわばドーナツで、大晦日に食べることになっています。試しに私も食べてみましたが、私のこぶしぐらいの大きさで強力粉を使うのかかなりのボリューム。一個で十分お腹一杯になってしまいました。オランダの家庭ではこれを揚げては食べることを繰り返して年越しを迎えるのだそうで、想像しただけで胸がいっぱいになりそうです。
年明けて、オランダには日本のような年始の行事は特にないようでした。おせち料理のような特別な料理もありません。仕事も元旦の一日だけのお休み。二日からもう仕事始めで、特別けじめというようなことはありませんでした。当然、年始の空気の澄んだ凛と引き締まったような雰囲気も皆無です。
それどころか、元旦に街で目につくのは大晦日の馬鹿騒ぎの余韻でした。至る所に花火の残骸が残っているのです。赤い火薬は道路の端でどんどん埃で汚れていきます。片づけようという人もいません。こうなると、静寂に包まれる日本のお正月が懐かしくなります。
海外で暮らしている日本人は、このお正月に一番、自分が日本にいないことを実感するのではないでしょうか。なんとか日本に居るときのようなお正月の雰囲気を味わおうと努力する人も少なくありません。また、この気持ちを汲んでなのか、JSTV(海外日本語放送)でも大晦日には紅白歌合戦が放映されます。これは日本時間のリアルタイムで放送されるのではなく、現地の大晦日夜(日本よりも8時間遅れ)に放映され大晦日気分を満喫できるように工夫されています。日系のホテルではこれを大スクリーンに映してくれるのだそうで、「みんなで紅白を見る大晦日」というような宿泊パッケージが用意されています。
日本食レストランではおせち特別メニューを用意してくれてお雑煮を食べることもできます。私たちも二年目には出かけてみましたが、知り合いの方に数人お会いしました。日本人の多いロンドンではおせち料理の注文販売を受注しているところもあるのだそうで、日本とそう変わらないお正月を迎えることが出来ます。
ただし、さすがにしめ縄をドアに飾っているお宅にであったことはありません。かなり目立つでしょうね。
お正月を大切にするという点では中国などもそうでしょうが、在外の華僑の人たちなどはやはり故郷と同じお正月を迎えるのでしょうか。
私は天の邪鬼なので、皆がすることを逆にしたくなくなるという癖があって紅白などはあまり見る方ではなかったのですが、日本に帰ってからは別な思いで見るようになりました。「海外に住まわれている方はどんなお気持ちでこの番組を見ていらっしゃるかな」と。
それぞれの国で色々な年明けを迎える方達がいます。新しい年への思いも皆それぞれでしょう。それでも、より良い年になって欲しいと願う気持ちは同じなのではないでしょうか。
(2003/12/29記)